SAPコンサルタントとは
SAPコンサルタントの概要と役割
SAPコンサルタントとは、企業の業務効率化を支援するSAP(Systems, Applications, and Products in Data Processing)というERP(統合基幹業務システム)の導入・運用をサポートする専門家です。SAPは、財務・人事・物流・生産管理など多岐にわたる業務プロセスを統合し、企業のデジタル変革を推進する重要なツールとして世界中で活用されています。
SAPコンサルタントの役割は大きく分けて「導入支援」と「運用改善」の2つあります。
- 導入支援
SAPコンサルタントは、システムの導入を行うクライアントへのコンサルティングを通して、企業の業務分析を行い、SAPの最適な導入方法を設計・実装する。 - 運用改善
SAPシステムは、企業に合わせた豊富なテンプレートが用意されているが、企業の業務フローに合わせ最適化するには、モジュールのカスタマイズが必要となる。そのため、クライアントの業務改善と効率化を提案する。
導入企業が求めるスキルセット
SAPコンサルタントの仕事は、SAPシステムの導入・保守運用です。システムの導入や保守運用と聞くと、「それって他のITコンサルやSEの業務と同じでは?」と思うかもしれません。 しかし、SAPのプロジェクトには大きな違いがあります。
SAPはグローバルスタンダードERPとして、どの業界にも適用できるように設計されています。ただし、「フィットする」といっても、各企業の独自の業務にそのまま当てはまるとは限りません。
そのため、SAPプロジェクトでは、単なるシステム導入にとどまらず、SAPに業務を適応させる業務改革プロジェクトも並行して進めるのが特徴です。
その中でSAPコンサルタントとして必要なスキルは、大きく4つに分けられます。
SAP標準機能への理解
SAPのスキルを身につけるうえで、最も重要なのは「SAP標準機能」を理解することです。SAPはパッケージシステムなので、基本的には導入後に少し設定を調整すれば動作します。そのため、「SAPにはこういう機能があって、こうやって使うんですよ」とユーザーに説明できることが求められます。
たとえば、要件定義フェーズでは、顧客の業務とSAPの仕様を照らし合わせて、どこが合うのか(Fit)、どこが合わないのか(Gap)を洗い出します。そして、合わない部分については、業務をSAP仕様に合わせるのか、それともSAPにアドオン(追加機能開発)するのかを決めていきます。
つまり、ユーザーにとってあなたは「SAPの先生」です。先生に「SAPってどうやって動かすの?」と聞いたときに、答えに詰まるようでは話になりません。SAPの標準機能をしっかり理解し、自信をもって説明できることが重要です。
一般的なITスキル
SAPはITシステムです。つまりITシステムはどのように動いているのか、といった最低限のIT知識を身につけておく必要があります。
特にSAPコンサルの中には、業務に関連する知識に詳しいが、ITの仕組みをおざなりにしている人も少なくありません。しかし、ITスキルの低いコンサルが設計した業務プロセスは、実際にシステムで動かそうとすると整合性が取れず、運用上の問題を引き起こすことがあります。
ITスキルが求められるケースとして以下の例が挙げられます。
・要件定義フェーズ:SAPで業務をどう実現するかを検討
・設計フェーズ:アドオン(追加機能)の設計
・テストフェーズ:システムエラーの原因調査
特に要件定義フェーズでは、ユーザーと業務要件を詰める過程で、システム的にどう処理するのかをIT視点でも説明できないと、後々の工程で不整合が発生します。
さらに、コンサルタントが対峙するクライアントの中にはITリテラシーが高い人もいるため、最低限のコンピュータ知識がないと「このコンサルタントは、大丈夫か?」と思われてしまうことも…。SAPコンサルとして信頼を得るためにも、ITの基礎はしっかり押さえておきましょう。
あるべき業務内容の理解
SAPプロジェクトは、単なるシステム導入ではなく「SAPに業務を合わせる業務改革プロジェクト」でもあります。
そのため、顧客の業務に関して深く理解していなければ、適切な業務改革を進めることはできません。
ここで重要なのは、「顧客が実施している業務=SAPに反映すべき業務」ではないこと。知っておくべきは、「世間一般的な業務(あるべき業務の姿)」です。
伝統的な日本企業は、長年の改善活動の影響で、自社独自の業務プロセスといったものが根付いていることも多くあります。そのため、SAPと企業固有の業務の間には必ずャップ(Gap)が生まれます。このギャップを埋めるには、「そもそもあるべき業務はどうあるべきか?」を理解しておく必要があります。
・要件定義フェーズ:顧客業務のヒアリングとSAPとのGapの洗い出し
・業務改革の検討:不要なカスタマイズを減らし、SAP標準機能を最大限活用
もし、業務知識がないと、クライアントの要望のままにカスタマイズを繰り返すことで、本来のSAPの強みであるパッケージシステムの利点が失われてしまいます。その結果、アドオン開発が増え、コストも運用負担が大きくなるよう本末転倒な事態に….。
SAPを活用して業務改革を成功させるためには、業界標準の業務知識を持ち、クライアントに最適な業務プロセスを提案できることが必要不可欠です。
一般的なビジネススキル・コミュニケーションスキル
SAPコンサルとして、コミュニケーションスキルは必須です。
「コンサル」と聞くと、クライアントの前で軽やかにプレゼンするイメージがあるかもしれません。もちろん、プレゼンスキルも重要ですが、それ以上に大切なのは プロジェクト内の各ステークホルダーとのコミュニケーションを円滑に進められるかどうかです。
ユーザーへのプレゼン:SAPの機能や導入後の業務プロセスを分かりやすく説明
プロジェクト内メンバーとの会話:設計や課題の調整、進捗管理など
SAPプロジェクトは大規模になることが多く、プロジェクトに関与するメンバーが100人・200人を超えることもあります。そのため、 「自分ひとりで完結できる仕事」はほぼない と考えたほうがいいでしょう。プロジェクトを円滑に進めるためには、 対面での会話、メール、チャット、電話などを駆使して、適切な人に適切なタイミングで情報を伝え、協力を得ることが重要です。
コミュニケーション力は、日々の積み重ねが大事です。特に、 「構造的に分かりやすく伝える力」 はコンサルにとって不可欠です。日々様々本を読んで、勉強することが大切です。
SAPコンサルタントの需要と市場価値
世界的にも高まるSAP需要
SAPは世界の大企業の多くで導入されており、ERP市場において圧倒的なシェアを誇ります。特に、昨今では企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が進む中で、SAPの導入ニーズが高まっています。SAP社は2027年にSAP ECC(従来のSAPのバージョン)のサポート終了を予定しており、多くの企業が最新のSAP S/4HANAへの移行を迫られています。
日本国内でも、大手製造業・金融業・流通業を中心にSAP導入が進んでおり、SAPコンサルタントの需要は今後も増加傾向にあります。また、SAP導入プロジェクトは長期化する傾向があるため、経験豊富なコンサルタントは引く手あまたの状況です。
年収・報酬の相場はどう変化しているのか
SAPコンサルタントの役割については、担当領域によって細かい分け方があり、「テクノロジーコンサルタント」や「アプリケーションコンサルタント」のほか、SAP独自の開発言語であるABAPを使ってアドオン開発をする「ABAPエンジニア」、統括領域の「PM・PMO」などの役割があります。SAPコンサルタント全体の年収としては、高水準で推移しており、特に経験者の市場価値は年々上昇しています。
- 【派遣社員】SAPコンサルタントの年収相場
派遣社員として働いた場合の年収相場は、600万~1000万円程で、より専門性が求められる業務内容であれば正社員の平均年収を上回るケースもあります。 - 【フリーランス】SAPコンサルタントの年収相場
フリーランスのSAPコンサルタントはプロジェクトベースで仕事を受けることが多く、その案件によって報酬や契約期間が変動します。したがってフリーランスの場合、年収相場は案件次第になりますが、年収で700万~1200万円は見込めるでしょう。
SAPコンサルタントになるためのキャリアパス
必要とされる実務経験・実績のアピール方法
SAPコンサルタントに転職する際には、SAP導入のプロジェクト経験を企業に示すことが重要です。また、業務プロセスの理解やABAPなどのプログラミングスキルやクライアントへの提案の能力など様々なスキルが求められます。
- SAP導入プロジェクトの経験
各コンサルティングファームが足元注力している/今後注力したい業界や領域の実務経験が挙げられます。 - 業務プロセスの理解
SAPコンサルタントには、顧客の経営課題を解決する役割を担う仕事であるため、各企業に対する業務プロセスの理解は欠かせません。
転職エージェントに聞く成功の秘訣
転職市場の最新動向
コンサルティング業界全体では、デジタル人材を中心に、採用ニーズが非常に旺盛であり、この傾向は、今後も続いていくと考えられます。
コンサルティングファームは、コロナ前から、業界未経験者の採用を積極的に行っており、コロナ直後には一時期、外資系コンサルティングファームを中心に採用を絞る動きがみられていましたが2021年後半から、日系コンサルティング会社を中心として採用者数は増加しており、デジタル戦略やITガバナンスなどといったデジタル人材であれば、業界未経験者でも積極的に採用していく傾向にあります。
選考でみられるポイントとアピール方法
転職エージェントによって、面接対策のサポートは異なりますが、多くの場合に以下のようなメリットがあげられます。
- 面接でのアピール方法
面接でどのようなポイントをアピールするべきなのか、どのように話しを組み立てるべきかといったアドバイスを受けることが出来ます。 - 企業の求める人物像の理解
転職エージェントでは、長く付き合いがある企業や、採用担当者と十分に話し合いができている企業に関しては、「企業が求める人物像」を深くしていることが多いです。
転職エージェントの活用法
- 年収やポジションの調整
SAPコンサルタント領域では、過去のプロジェクト経験や知識によって提示年収に幅が出やすい傾向があります。エージェントが交渉役となり、適切な評価水準を引き出すサポートを行います。 - 入社時期や勤務地の希望
コンサルタントは案件ベースで稼働するため、入社タイミングの調整が難航することも。第三者として間に入ってもらうことで、スムーズに合意を得られるケースが多いです。
まとめ
SAPコンサルタントとしてのキャリア展望
SAPコンサルタントは、今後も高い需要が続く職種です。近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しており、特に SAP S/4HANAへの移行 が世界中で進んでいます。また、日本では2027年のSAP ERP 6.0のサポート終了を控え、今後数年間はSAP導入・移行プロジェクトが増加すると予測されています。
つまり、 「SAPのスキルを持つ人材はますます貴重になる」ということです。
早めに行動する重要性
需要が高まる一方で、SAPコンサルタントとして活躍するためには 「経験」と「スキル」 の蓄積が欠かせません。
特に、SAPコンサルは単なるシステム導入の専門家ではなく、 業務知識・ITスキル・プロジェクトマネジメント・コミュニケーション力 など、幅広いスキルが求められます。
そのため、早いうちから以下のような行動を取ることが重要です。
- SAP標準機能の理解
- 業界知識を身に着ける
- プロジェクト経験を積む(特に要件定義や設計フェーズにかかわる)
- 資格取得を目指す(SAP認定資格など)
特に、SAP導入プロジェクトは大規模になることが多く、「経験を積むのに時間がかかる」のが特徴です。そのため、キャリアを本格的に築くなら、できるだけ早く実務経験を積み始めることが大切です。